■前回のあらすじ…百貨店卸メーカーに10年間勤務していた沖田は、会社の方向性に疑問を感じ、希望退職を良い機会と転職を決意。専門店卸メーカーの新ブランドの営業として再就職したが…
本当に今の専門店は厳しいのかを聞くために、大学の同期で関西出身の中島と久しぶりに会って飲むことにした。中島は学卒後、大阪本社で中堅メーカーの東京支店に就職が決まり、今ではその支店の営業マネージャーとなっていた。そして飲むと決まって関西弁が強くなり、人を笑わせては元気をくれていた。
「専門店はそんなに厳しいか?」
『百貨店畑のお前には判らんやろうけど、今俺の部も企画の見直し中。10年も同じブランドやとどうしても既存店と一緒に歳をとって、しかもそのイメージが浸透して、逆に新規開拓が難しい。新ブランドとして別でデビューさせるか、リニューアルとして披露するか、社内で検討中や。』
「どっちにしても売り上げは落ちるな。」
『当然や。』
「で、どうなんだ、勝算があるのか?」
『勝算があるかどうかじゃなくて、生き残りを掛けてるんや。でも企画から出てくることと、営業が望むことに開きがあり過ぎ。それをまとめるのは至難の技や。社内でも俺しかでけへん!』
「そうなんだ…」
『うそうそ、それはうそやけど、役員や店の保守的な考え方を変えるのは、メチャメチャエネルギーが要るんや。しかも、それだけやのうてそのブランドの新しい店も別で開拓せなあかんから、親方日の丸の能天気な気持ちやったら絶対失敗するで。』
「なぜ?」
『あのな、今の専門店は5年先のこと考てへん。しかも自分らの代で店を終わろうと思ってる。どう思う?会社の将来があと5年でええと思うか?俺には耐えられへん。俺の子供には胸張って言いたいやん。【お父さんはカッコエエ仕事をしてんねんで!】って』
「確かにそうだよな。俺も子供が生まれたばかりだけど、喜んでばかりはいられないな。何だか甘いな…俺。今まで10年間なに見てきたんだろう?」
『頑張ろうや。まだまだ元気なオーナーもおるから、そんな人に会うてどんどんエネルギーを貰うねん。そんでそのパワーを迷える子羊にどんどん分けんねん。それが俺たち営業のほんまの仕事やと思うねん。ええこと言うやろ俺。』
「お前、昔はボールを追いかけるしか能がない野球ばかだと思っていたけど…」
『あほ言え!今でも毎朝走ってんで。駅から会社まで猛ダッシュで朝礼ギリギリセーフや。』
「あっ、やっぱり!」笑いながらも(こいつには絶対負けたくない!)と心に誓う沖田だった。
翌日、沖田の机の上を見た営業部長の沢田は「なんだこれは?」と首をかしげていた。
■沖田の机の上にあったものとは一体…
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