小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2008年12月29日(月)
第5話: 当たり前が特別?

■前回のあらすじ…友人中島に紹介してもらったチェーン店オーナー赤木社長の話しに、沖田は驚愕していた。

 赤木社長の話しは続いた。
 『営業の資質と言いましたが、それって何だと思います?』
 「・・・?」
 『今朝沖田さんはここに着く前にうちに電話を入れたでしょう。たぶんアポの確認と、あとどれくらいで着くかを知らせるためですね。お陰でこちらも心の準備ができました。そして約束の5分前に着き、元気良く挨拶してくれました。そんな姿勢に、事務所の3人の女性がOKを出しました。その証拠に、白板に青色のマグネットが3つ並んでいます。事務所だけの暗号ですが、もし赤色3つなら世間話しで終わっています。』と、驚きの話しはさらに続いた。
 『つまり、我々も同様にお客様に見られているんです。ただ、お客様はシビアですから、買物するのに心地よい店かどうか、入った瞬間に感じ取ります。苦痛なら無言で立ち去ります。誰でも不平や不満は声にしても、我慢は声に出さないのです。店は全くそれに気が付かない。それを見つけることが店長や私の仕事なんです。判ります?』
 「よく判ります。」沖田は社長の話しに頷きながらも懸命にメモしていた。
 『そして、お客様がお店に入って一番辛いのが無視されることなんですよ。』
 「えっ」
 『だって何かを求めて入って来られたのに、無視されたらどう思います?まして顔も見ずにマニュアル通りの声掛けは最悪です。』
 「でも嫌がる人もいますよね。」
 『だから店の空気なんです。淀んだ空気は居心地悪く、清々しい空気はいつも流れているから、気分がいい。だから今日は無理でも明日来てくれます。』
 「どうすればそんなことが出来るんです?」
 『簡単です。普段から名前で呼び合うことです、社員もお客様も。』
 「はあ?」
『女性は特に生活環境の変化で、個人の名前が薄くなりがちです。』
 「名前が?」
 『キャリアのある方ほどその事が辛くなります。結婚して奥さんと呼ばれ、子供ができれば◎◎ちゃんのお母さんと、次第に自分がいなくなります。だから当店でのお買物の時は、極力お客様と呼ばず、△△様と名前でお呼びするようにしています。
初めてのお客様は無理ですが、でもカード支払いのサインをして頂いたらその名前を読んでお礼を言います。習慣化する為に、社内で役職で呼ばず名前にさんを付けて呼び合っています。』
 「社長も?」
 『そう。うちでは当り前のことですが、これが特別なことのようですね。』
 「と思います。」
 『でもこれを教えてくれたのは大阪のメーカーの社長ですよ。まだ若い会社ですが、社員の目の輝きが違います。社員がお互いさん付けで呼んで尊重し合っています。一度会社に行くと判りますよ。』
 「ぜひご紹介ください!」

■沖田は、人と人との繋がりに神秘的なものを感じていた。そして赤木社長をも唸らせた大阪の社長に会えるのか?