小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年1月25日(日)
第7話:やるべきことは・・・

■前回のあらすじ…取引先の本音を聴き、何も答えられない自分が情けなかった沖田だった。しかも業界にいる自分が、実は世の中から遅れていることを指摘され愕然としていた。

 社に戻った沖田に沢田部長が第一声。
 「あの赤木社長とよく会えたな。」
 『はあ?』
 「その昔、何度となくうちの営業がアタックしていたが、なぜかほとんど世間話で終わったんだ。」
 『このことか!』(沖田は赤木社長の言葉を思い出した。)
 そして今朝の赤木社長の話しと、取引先のブティックアールさんの話しを部長の沢田に報告し、専門店の悩みの多さに何か会社として手が打てないものかと相談してみた。もちろん赤木社長とのこれからの付き合いもちゃんと視野に入れてのことだが…。
 すると部長から意外な返事が戻ってきたのである。
 「君の言うことは判るが、うち一社の力では全国のアールさんの悩みは解決できないし、まして赤木社長の指導方法は他店には真似出来ないよ、たぶん。」
 『どうしてですか?』
 「頭で理解できてもいざ実行となると相当な覚悟が必要だ。ほかの会社やお店にも独自の接客方法があって、皆それが正しいと思って続けているのだから、いくら良いアイデアでも一朝一夕では変えられないよ。」
 『でも、本当は悩んでいますよ。売り上げ不振=お客様が来ないって。今よりもっと良くなりたいと思っているオーナーばかりのはずなのに、なんで伝わらないんですか!何だか悔しいです。』
 「自分のところだけ良ければいいと思う人が多いと言うことだろう。だから企業も団体も連携しないし、商店街も一体化しない。みんな判っているはずさ本当は。」
 『だったらやればいいのに。やってみないで文句ばかり言うなんて…』
 「そう簡単にできることじゃないんだよ。結局メーカーは、自社の取引先との関係を守るのに必死でそれ以外のことは考える余裕がないんだ。うちも例外じゃないが…」
 『そう言えば以前百貨店も互いに売り場の探りあいをしていたし、地方の百貨店の内情は火の車と言う所も多いみたいですしね。』
 「そうそう、その地方百貨店が廃業して、その器を丸ごと買い取った企業が関西にあるんだが、そのフロアーをリーシングしている会社の事業部長が私の知り合いなんだよ。それで、そこに出店しないかという話しがあるんだ。うちが直営店として運営は無理だが、フランチャイズか地元の販売代行が入るなら考えても良いと社長が言っている。ただ、一度閉鎖している所だからその環境を見ないと何とも言えない。それでその責任者に会って詳細を聞いて欲しいんだ。
 本来なら私が行くべきことなんだが、日程が合わないのと、百貨店の売り場のことなら君が良いだろうと思ったんだ。とりあえず明日大阪に行ってくれ。それとついでに私の知り合いのメーカーの社長に会って、関西の情報も仕入れて来て欲しい。すでに先方には話してあるから…。」
 『えらく急ですね、判りました。』

■急な大阪出張に、運命の出会いが待っているのだが、当然沖田は知る由もなかった。