小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年2月22日(日)
第9話:風は起こすもの…
■前回のあらすじ…船場センターにある問屋の西川社長に元気をもらった沖田は、次の訪問先に向かった。

 向かった先は沢田部長の友人で、ミセスからOLキャリアに企画をうまくシフトした株式会社エムフィールドの石岡社長の所であった。
 「こんにちは。スウィッチの沖田と申しますが石岡社長は居られますか?」と玄関近くにいた若い女性スタッフに尋ねると『はい、少々お待ち下さい。石岡さあん、お客様ですよ〜』と元気な声で奥の方に駆けて行った。
 「あれっ?」と一瞬感じた沖田だった。
 しばらくして『やあやあ、いらっしゃい。さあどうぞ。』とデニム姿にニット帽の石岡社長が現れた。
 『初めまして。沖田さんはしっかり者らしいですね、沢田さんが誉めてましたよ。』と、関西なまりもなく、しかも沢田部長と同じ歳とは思えないぐらい若々しい石岡社長である。自己紹介をしている間にまた違うスタッフが『石岡さん、陳さんからさっきの返事で電話が入ってますけどどうします?』と呼びに来た。
 『あっ、沖田さんごめん。ちょっとだけ…』と言って離席し、すぐに戻って来た。
 『中国から仕入れの話しだったのでごめんね。』と、あっけらかんと言われた。
 そこで、先程から感じていたことを思い切ってぶつけてみた。
 「あの、先程からスタッフ同志、“さん”付けで呼び合っていますよね。しかも社長のことも石岡さんと呼んでますし。これって社内全員そうなんですか?」
 『ああ、うちはそうですよ。変ですか?』
 「いや変ではなくて、先日北関東のお店で同じことをやっているチェーン店のオーナーがいまして。」
 『それ、ひょっとして赤木さん?』
 「そうです、そうです。」
 『それだったら判りますよ。だってそのことを話したのは私ですから。えらく感動されて、うちもそうする!って言われていました。そうですか、社内で定着したんですね。良かったなあ。』と感慨深げだった。
 「そうか、赤木社長が言っていた人物が石岡社長なんですね。これで繋がりました。赤木社長と石岡社長と、そしてうちの沢田と…納得です。道理で皆さんの考え方が近いなと思っていたんです。」
 「でも、その“さん”付けの呼び方でのメリットは何ですか?」
 『沖田さん、メリットよりデメリットがないんです。』
 「???」
 『人はすぐにメリット=利益があるかと考えますよね。でも私の場合はデメリット=機会損失だと考えます。つまり動かなかったことの損失です。動かないと答えが判らないでしょう。つまり、動けばさらに次の一手をどう打つかが判るんです。動かない人は、次の一手さえも打てない。と言うことは、動いた人から2手も遅れを取るわけですね。これは致命傷ですよ、ビジネスでは…』
 「そうですね、赤木社長も動けば風が起こり、それがまた気持ちを動かすと言われていました。」
 『その通りです。でもすぐに動かない人の方が圧倒的ですから、チャンスがあるんです。』
 『さあ、じゃあ私の師匠の所に行きますか。お昼まだでしょ?』
 「えっ?師匠?昼?」

■疑問符の沖田を促してお昼に出かけた二人だが、そこでみた沖田は風の意味を知った。