小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 3月 8日(日)
第10話: 大きさと長さ…
■前回のあらすじ…以前から熱望していた人物に会えた沖田は、更にその人の師匠だと言う人に会いに行った。

 石岡社長に会えて、ますます興味を覚えた沖田だが、その石岡社長が師と仰ぐ人物が、お昼を食べに行く店に居ると言うので同行させてもらった。
 「その方はそのお店に居られるのですか?」
 『そう、とってもすごい人。』
 着いた所は、ビジネス街にそこだけ昭和のまま時間が止まったような、昔ながらの木造一軒家だった。よく見ると小さな看板で【お好み焼き 和】と書いてあった。
 「ああ、いらっしゃい。」と70代ぐらいの恰幅の良いおばちゃんが、エプロン姿の笑顔で応えてくれた。
 「あれ?また新顔かい?」と、私を見て尋ねてきた。
 『彼は東京から来たお客さんの沖田さん。』とおばちゃんに紹介されたので、「沖田です」と小さく会釈をした。
 「そうかい、じゃあスペシャルにする?」
 『それ2つ!』
 おばちゃんは「よっこらしょっ」と言って、テキパキとそれを焼き始めた。
 「あのう、ここに社長が言われる師匠が来られるんですか?」
 『来られると言うか、目の前のひと。』
 「目の前って、えっ?まさか…」
 『そう、そのまさか。まあいいからいいから…』
 「はいよ、和(カズ)特性モダン!若いんやからしっかり食べて、しっかり働きんさい。」
 「熱っ!…でも旨っ!」
 「おおきに。これから石岡ちゃんに色々教えてもろたらええよ。とにかくええ人よ。たくさんの社員さんがおる社長さんやのにちっとも偉そうじゃないんじゃけん。ほんまにあたま低いんよこの人は。」
 『おばちゃん、もうええて。』
 「あかん。大事なお客さんなんじゃけん、私がしっかり言うといたげるけん。この兄さんも素直で礼儀正しいし、愛想ええし、若い人にはめずらしいね。でもそれが一番や。誰でも調子ええ時は大きく見せたいと思うねん。でもそれが間違いの元。大きくするより長くするこっちゃ。それが商売の秘訣やで。わて見て見い…広島から出てきてここで40年も毎日お好み焼き焼いてるんやで。わては肩書き関係ないし、言われても判らんし…だから定年しても来てくれる人もいてはる。」
 『周りの会社の社長や重役も、商売の原点を忘れんようにここに来るみたい』「へえ…」
 「沖田さんゆうたかね、男やから、無理してでもがんばらんならんこともあるやろ。でも商売とはいえ道理を曲げてまでやる必要はないで。若いうちは会社の看板売らんと自分を売んなさい。それが商売長続きするコツや。長い人生や、あんたがんばりんさい!」
 『出たっ、その一言が聞かせたくて今日ここに来たんや。調子ようなるで、どう、効いた?』
 「はい、胃にも心にもおばちゃんの愛が効きました。」
 「あんたおべんちゃらも旨いね。ええ商売人になるわ…」(笑)


■胃も心も満たされた沖田は、明日商談する物件の事前調査のため、早速リサーチに向かった。案の定そこは…