小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 4月 21日(火)
第13話: 「言うは易し…
■前回のあらすじ…企画部長から詰問を受けた沢田部長は、沖田を連れ、打開策を求めてあるところへ向かった

 部長の沢田から途中何も聞かされていない沖田は、表参道にある事務所に連れられた。
 その会社の本体は歴史のあるメーカーだが、3年前に新ブランドを発表し、そのブランドが今まさに花開こうとしていた。 そのプロセスは決して順調ではなかったが、全社あげてのその動かし方に注目すべきものがあった。
 沢田は、そのブランドを統括する岩井部長と以前あるコンペで同じ組になってから意気投合し、時々相談しあっていた。その事務所が南青山にあり、コンパクトだがおしゃれなショウルームであった。
 『久しぶりだね、どうしたの?急に電話してきて、何かあったの?』と岩井部長。
 「悪いね急に。こっちはうちの新ブランドの営業で沖田と言います。以後宜しく。」
 「沖田です。宜しくお願いします。」
 『なんだ、新人紹介?』
 「いや実は恥を忍んで来たのは、岩井さんとこの成功事例を教えてもらおうと思って来たんだ。企業秘密は聞かないけど、最初の頃今のうちと同じような経験をしたんじゃないかと思って、それで…」
 『ん?なに?』
 「岩井さんとこは、本社が日本橋なのに、このブランドだけ南青山でよく社長がOK出したね。」
 「えっ?本社日本橋ですか?名刺には書いてませんが?会社名は…?ああ、確かに裏に小さくローマ字でありますね。えつ?これって…あの大手メーカーですよね、百貨店にも入っている…」
 『そう、うちは元々漢字の会社名だから、どうしてもその印象が強く、新規活動にも影響が出ると思った。だから最初から本体と切り離して動くことにした。その時に中途半端なことをしたら、結果的に本体の足を引っ張ることになる。分社はできないが、考え方は独立採算で、そのために相当なリスクも負うことを覚悟の上で5名人選し、彼らに納得もしてもらった。つまりプロジェクトチームと言う意識で、3年後には、アパレルの目標の社員一人頭5000万円の売り上げを作ろうが合言葉となった。でもそのために其々がどう動くかを考えて、俺の所に提案させた。そこで経費との攻防が始まり、チーム全員が納得すれば、今度は本社と交渉。そして其々が提案したことが通れば責任感も出るし、やりがいも出る。何よりもチーム全員が納得したのだから、責任転嫁できない。顧客ゼロから始めたから最初の1年間は、ほとんど休みなしだったな。でも、皆楽しんでいた気がする。』
 「本社からは何も言ってこないのか?」
 『そりゃ、1年目は本体におんぶにだっこだから、風当たりはきつかった。でもその風除けが俺の仕事だし、調整と交渉もな。』
 「と言うことは、企画も安心して物作りが出来ますね。」と沖田。
 『いや、企画が一番辛かったと思う。何せ営業の数字が出るのが遅かったから。でも営業を信じてくれた。これが一番大きい。』
 「これからどうなる?」と沢田。
 『今の時代、1ブランド3億が一つの目安でうちもそれに近づいたから、たぶん次の要求はあるだろう。我々は自分達で育てたこのブランドから、さらに姉や妹ブランドを作りたいと思っている。スタッフが育ったのも大きい。どう?いい感じだろ』
 奢りでも嫌味でもない岩井部長の嬉しそうな表情が印象的だった。

 我々に足りないのは社内の信頼関係かも知れないと感じ、二人は具体的な行動を始めた