小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 5月 3日(日)
第14話: 埋まる穴と埋められない溝
■前回のあらすじ…企画部長から、企画と営業のズレを指摘された沢田部長は、知り合いのメーカーに行き、そこの新ブランド推進の営業戦略に感動し、それを自社なりの形にするべく報告に戻った。

 社内に戻りもう一度推敲し直した二人は、翌日河本社長と企画部長の大西女史の前でその実行案をプレゼンした。
 まず、企画と営業の新ブランドに対するイメージの開きを近づけるため、市場の位置付を確認し、社内で認識を統一しようと考えた。それには実際にどの店に売り込みたいのかを各自がマーケットリサーチをしなければならない。その手法は至極簡単だったので、とにかく「まずやってみよう!」と言う事で意見は一致した。
 翌日の朝礼後にその方法が関係者に説明され、いよいよスタートした。その手法とはこうだ…。
 新ブランドに関わる企画と営業が、それぞれ新ブランドに合うと思われる店を、自由が丘と銀座地区から各1店舗ずつ、外観写真を撮って提出することだった。
 これには、2週間という期限を設け、社内での個別の相談や情報交換はご法度にし、それぞれが提出日までに撮った店の名前や写真は他の者には絶対に教えないというルールを徹底させた。
 そして忘れてならない大原則は、新ブランドのターゲットに合うと思われる店で、そこでぜひ販売してもらいたいと言う、誠に一方的で主観的な観点での店探しだった。だから、商売で新規の店を探すよりある意味ラクで、ある意味真剣だった。ある男子営業は、彼女とのデートのさなかに市場リサーチを敢行した者もいた。
 しかも今回のこれをやるのにかかった実費経費は、すべて会社が負担するということもあってか、普段の社内のイベントよりも大いに盛り上がったのは言うまでもない。
 河本社長からすると、何だか楽しげで盛り上がる社内を久しぶりに見て、それも副産物としての効果だなと喜んでいた。
 そして待ちに待った提出期限の日が来た。社長室に集まった関係者8人が、それぞれが撮ってきた写真を懐に従えていた。
 河本社長から一言「みんなご苦労さま。久しぶりに真剣に市場を見て廻ったのではないかと思う。私も実は密かに廻ったが、これほど店が変わっていたとは正直驚いた。しかも今回はある目的を持って店を見て廻ったから本当に勉強になった。たぶんみんな同じ思いだったろう。いよいよ発表だが、どれだけ同じ店の写真があるのか、あるいはみんなバラバラなのか、子供の入学発表のようでワクワクドキドキするよな…。もちろん私も写真を撮ってきたから参加させてもらうけど、沢田部長いいよな」
「もちろんです。では、まず自由が丘地区の店をこのテーブルに『いっせーの』で出して下さい。そこに答えがあるはずです…では」
「いっせーのーで」
で、関係者8人一斉に出された写真は…

■次回次々と明らかになる企画と営業のギャップの穴は果たして埋まるのか…