小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 5月 31日(日)
第16話: 「リセット!」
■前回のあらすじ…自由が丘地区リサーチの結果、企画と営業との視点の違いがはっきりした。続いて銀座地区では…

 「いっせーのーで」と言う沢田部長の掛け声に、8人の手から机に並べられた店の写真は、撮影禁止のビル内での隠し撮りのため、アングルもバラバラで、手ブレや斜めになっているものもあった。
 だが良く見ると、デザイナー大西・パタンナー大垣・生産村上の企画3人と営業の沖田と藤原の撮ってきた店が同じであり、河本社長・沢田部長・中堅営業金本の3人が、同じ店であった。
 5人の写真が揃った店は、昨年銀座にOPENした「マロニエゲート」2FのS店で、社長ほか3人の写真の店は、銀座5丁目のニューメルサの中の4FのC店であった。
 社長が腕組をして唸りながら話し始めた。
 「ひょっとすると、我々は大いに勘違いしているかもしれない。」と続けて、「新しい40歳に向けて商品企画をしてもらい、営業もそのコンセプトをしっかりと耳にし、自分達の中できちんと消化していると思っていたが、実際にこうやってリサーチすると、まず最初から見るべき視点が違っていた。つまりスタートの角度が少しだけ違っていたのだが、気が付くと大きくそれていたんだ。」
 沢田部長が続く「そうですね。我々も40歳はこういうライフスタイルだと、勝手に決めていました。だから、マロニエゲートのS店が、ストライクゾーンになるとは最初から思っていませんでした。」
 ここでチーフデザイナー大西女史が「営業の方々の40歳も確かにいます。決して間違ってはいないのです。ただ、この新ブランド愛?t?愛(aitai)は、40歳の働く女性が、もっとたくさん恋するためのリアルクローズの提案というのが、もともとの企画コンセプトだったのです。それを考えれば、ブランドの商品を引き立たせてくれる他のアイテムや演出をしてくれそうなMD力のあるエネルギッシュなお店と言うことになるはずなんです。」この熱弁に一堂大きくうなずいた。
 「よし、これで営業部の今からやるべき方針がきまったな、そうだろ沢田部長」と社長。
『はい』と恐縮の沢田部長。
 「ではこれから営業全員に今日の結果を報告し頭をリセットするようにしてくれ。そして自由が丘と銀座の店の売上・構成・顧客層などの情報を集めて分析してくれ。そしてこの店を『愛?t?愛(aitai)』の当面の目標店舗として頭に叩き込もう。それをもとに営業は全国の専門店の情報を集めるんだ。さらに企画にも手伝ってもらって、この店の顧客が見る雑誌は何かを調べてもらいなさい。プレス関係でコネクションがあれば話しをしてみるから…。それらの情報を営業ツールとして具体的にまとめて、新規のお店に提示できるようにしようじゃないか。」
 「わかりました。」と沢田部長。
 『社長、総務の中川君に頼んでaitaiだけの独立したホームページを作ってもらってもいいですか?』と沖田。
 「いいねえ、それに関係者のブログも入れてドキュメントにするか?」
 『いやそこまでは…』
 「何を言ってるんだ。言いだしっぺだから責任もっていいやつを作ってくれ。再来月の展示会に間に合わすんだぞ。では解散!」

■一斉に動き始めた取り組みに、次回新たな問題点が浮上したのだが、今は誰も気がつかなかった。沖田でさえも…