小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 6月 14日(日)
第17話: 「取り方ひとつで・・・」
■前回のあらすじ…新ブランドの方向性を決めるべく、自由が丘と銀座でのリサーチを行った結果、戦略が明確化し動き始めたのだが…

 実は本体ブランドは、ミセス対象で全国の百貨店などでの販売が多く、そのため展示会は年4回でも十分対応ができていた。ところが、新ブランド「愛?t?愛(aitai)」の場合は専門店が主体なので、そのサイクルでは現状で新規を呼び込むことは難しかった。
 そのため、単独開催で展示会をすることにしたのだが、横並びメーカーの展示会日程すら社内の営業も企画も誰も知らなかった。
 全社で動き始めた途端にぶつかった最初の小さな壁であった。
 「メーカー各社の展示会日程は、どこに聞けばいいんだ?新聞社か?組合か?」といらだつ沢田部長。
 『いや、新聞社も当月分はあっても1年先までは集計していないのではないでしょうか?』と沖田。
 「なんでこんな大事なことが公けになっていないんだ?誰も知りたくないのか。」
 『結局対抗するメーカーに直接聞くのが一番でしょうが、我々が聞いて果たしてみんな教えてくれるのでしょうか?』と若手営業の藤原。
 喧々諤々と議論しあって、結局部長の沢田が業界紙の知人に聞いてみたが、答えは「不明」であった。やはり本体ブランドが対抗するような大手メーカーは判っても、新ブランドに対抗する中小アパレルメーカーの日程は集計されていなかったのだ。
 「これからと言う時に、まさか展示会日程で詰まるとは思わなかったなあ。いっそのこと展示会なしの現物主体のブランドにするか!」と沢田部長の言葉に『冗談でしょ!』と沖田。
 「もちろん冗談さ。ただ、これほど真剣に展示会日程について考えたことが今まで無かったってことに気がついたんだ。つまり、展示会ですら、あって当たり前で、日程も何となく毎年同じような感覚で続けていたんだ。だから自分達のターゲット以外については同じ業界に居ながら本当に何も知らなかったと改めて思い知らされたよ。」
 『これからますますいろんなことにカルチャーショックを受けるんでしょうね。僕もここに入るまでは百貨店営業以外全く初めてでしたからね。ある意味これも新ブランド効果ですよね。』
 「例えば納期や価格設定、さらに取引条件などなど、今まで当たり前と思っていたことが当たり前でない“動きと対応”をしなければならないんだ。これを【苦痛】と取るか生き残るための【試練】と取るかで天と地の開きが出てくるんだろうな。』と苦悩の沢田部長。
 『大丈夫ですよ。営業部みんな僕が入った頃と何だか目の色が違いますし…。新しいことにチャレンジできる楽しみが一つ増えたと喜んでいるんじゃないですかね。』とポジティブ沖田。
 「営業マンはタフでなければ生きてはいけない…ってか!」久々の沢田部長のオヤジギャグに苦笑いの営業マンたちだったが、その顔に苦悩はなかった。

■展示会日程も決まり、本格的な活動スケジュールも決まった新ブランドの営業であったが、安堵も束の間、更なる壁が沖田に待ち構えていたのだった。