小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 6月 27日(土)
第18話: 「締めるのは何?」
■前回のあらすじ…展示会スケジュールも決まり、企画も予定が組みやすくなり、協力工場などにも話し込みが可能となった。ところが…

経理の前田部長が、営業部長の沢田のところにやってきた。
「おい、この山形の△△百貨店の取引に変わったことは無いか?」
『どういうことですか?』
「いや大げさには言えんが、私の知り合いの審査部にいる奴から内々で問い合わせがあったんだ。」
『何てです?』
「その会社は現金でしか取引をしないんだが先月末、山形のそこから手形が届いたらしい。しかも事前に何の連絡も無しにだ。」
『うちもやっていますが、うちにはその話しはないし、あればすぐに報告しますよ。あそこは山形県内に3店舗あって、この秋からうちの新ブランドでの取引も始まりました。私も担当には「売れ売れ!」とハッパをかけています。』
「私も今までの取引内容から見て注意はしていないんだが、ちょっと気になったのでね。」
『そういえば、そこのチーフバイヤーが、先週も来ていましたが、普通でしたよ。』
「そうか、それなら大丈夫かな。まあこんな時期だから、特に何か変わったことがあったら小さなことでも教えてくれ。」
『判りました。全店の入金状況を再度チェックします。』と沢田部長。
前田部長は社長の知り合いで、銀行を定年退職した人物である。アパレル業界のことは全く知らないが、逆に業界の慣習に影響されることなく、水平・垂直思考の標準基準で物事を判断できる人であった。だから、営業たちは社長に呼び出される以上に、前田部長に声を掛けられると緊張したのだった。
「沖田君、山形の△△百貨店を知っているか?」と沢田部長。
『ああ、旧い地方百貨店ですよね。僕は直接知りませんが、昔取引きしていて何ら問題はなかったはずです。確か去年だったかな?社長と取締役が交替しましたよね?あれは何でだったかなあ…』
「えっ?役員が交代した?聞いてないぞ…。」
『あれ?違ったかなあ?いや確か業績を回復するためとかなんかそんなこと当時の担当が言っていたような…』
沢田部長は、すぐに出張している担当のB君に連絡を取った。そして…
「…ばかやろう、なんでそんなこと黙ってたんだ!」と、電話口で怒鳴っていた。
B君は、当時役員交代の通知が自分宛てに届いていたのだが、現場の取引に直接関わることでは無かったので、気にもせずそのままにしていたらしい。
5日後、△△百貨店は民事再生の申請を出した。
沖田の新ブランドも、秋から3店舗展開することになり、その最初の商品を投入したばかりであった。だから、本体ブランドと合わせるとかなりの金額になった。
営業部が盛り上がりを見せていた所だけに冷水を浴びせられたように沈滞してしまった。そこに前田部長がやってきた。
「この損は今期ではカバーできないぞ。営業部へのペナルティとして、回収と営業経費の使い方はさらに厳しくさせてもらう。だけどね、営業部が今回のことを糧にして部内改善をすると言うなら、我々後方支援組も痛みを分かち合うよ。経費の使い方が甘くなった会社のふんどしをもう一度締め直すように社長にも言う。社長の接待交際費ももちろんだ。言えるのはわししかいないだろうし…経費を締める分、知恵を出せよ。じゃあ頼んだよ。」
営業部全員頭を下げた。そして自分達がやらなければならないことを話し合った。

■出てきた営業部の知恵とは…次回