小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 7月 6日(月)
第19話: 「先に言う言葉は・・・」
■前回のあらすじ…営業部の失態とも言える売り掛けの焦げ付きは、言い訳無用のものだった。それを今後の糧として次に繋がる策を考え経理の前田部長に報告することになった。

「前田部長の言うことも判るけど、神様ちゃうから相手の懐具合までは判らんよな。」とは、大阪出身の中堅営業福島の言葉。
「新規で口座をあげる時に、調査書で与信枠を決めてるから、何とかその範囲内でのやけどで収まるけど、こわごわ商売しても面白くないし…かと言って引っかかるのはもっと面白くない!」とベテランの太田。
「ちゅうことは、やっぱり事前の調査か?でも最近は調査も大変らしいで。時間も掛かるし。第一、新規の相手が拒否したらどないなんねん。結局取引きでけへんやん。」と福島。
「あのう、以前の会社で一人だけ回収率が毎月60%をキープしていた先輩がいるんですよ。」と沖田。
「うっそ。アベレージやで。しかも毎月?」
「そうです。導入時期でも60%で、通常期は70%超えていました。」と沖田。
「売上が低いんちゃうか?」と茶々を入れる福島。
「いえ、専門店卸事業部の常に上位です。僕ら百貨店事業部ですから、入金の苦労はないのですが、その回収の仕方を聞くと納得しますよ。」
「毎回脅してるとか?」と笑いながら福島。
「そんな訳ないじゃないですか、その逆ですよ」
「逆?どういうこと?」
「褒めると言うより、感謝するんですよ、いつも…つまり、入金があった時にいつも毎月お礼の電話をしていましたね。」
「担当先の全店にか?」と太田。
「そうですね。あの人は確か60軒ぐらい担当を持っていたはずですが、いつもお礼の電話をしていました。時々電話で『本日ご入金有難うございます。でも社長、今回はお約束より5万円少ないですね。』ってさらりと嫌味も言っていました。それを聞いた時には『すごいなこの人』と思っちゃいました。」と沖田。
「確かに…」と納得の福島。
「だって、普通は入金の低い店か、遅れている店に電話するでしょ。それが逆なんです。」と沖田。
「その効果は絶大か?」と静かに聞いていた沢田部長。
「絶大かどうかは判りませんが、『60軒中特に姿勢の悪い店は1割強の10軒。それ以外の50軒はまともな店なのに、そこに毎月電話しないで、悪い店に電話代をかけてどうするよ。お礼を言う方が先だろ。それを毎月続ければ必ず回収率は上がるよ。みんな勘違いしているんだよね。』ってさらっと言っていましたよ。」
「なるほどなあ。契約入金は当たり前だと思って、今までお礼なんか言ったことなかったもんなあ。」と太田。
「そうでしょ。彼も最初は恥ずかしがっていましたが、実はお礼の電話はお互いが気持よくて、特に社長に電話できる最高のチャンスだよとも言っていました。それを続けることで信頼にもつながるから、相手の微妙な空気も読めるようになるとも言っていましたね。」
「よし、今日からお礼の電話を実行してみようじゃないか。そして半年後に全社で5ポイントの回収率を上げて、1年後には契約通りの水準に戻すと前田部長に報告しよう」と沢田部長も興奮気味だ。
「名づけて【お礼電話大作戦】やな」と福島。
「そのまんまや…」と太田達。その効果の程は半年後に出るのか…。

■回収率UPの具体策の決まった営業部。その時に1本の電話が…