小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 8月 16日(日)
第22話: 「選択の余地とは…」
■前回のあらすじ…静岡のヤブタさんに10年ぶりに訪問し、バッティングの問題で死活問題になったことを他人ごとのように聞いていた沖田だが…

さっそく沢田部長にヤブタさんと新規で取引が出来ること伝えた沖田は、バッティングで店が苦労していた現状も軽い感じで報告した。ところが、その問題が実は自分の身にも降りかかっていたことを知らされたのだ。
「先週、うちが加盟しているネット通販サイトで、川崎市麻生区の店から新規取引の申し込みがあったよな。」と意味ありげな沢田部長。
 『えっ?…ああ、例の仕入れサイトですね。確か本体のジャケットの在庫を今回特別価格で初めて出して、その商品を買いたいと取り引き申請のあった店ですよね。ええっと、麻生区岡上だったかな、2年前に自宅を改装して実店舗にしたという…』
 「そうだ、その店の写真はあったのか?」
 『しっかりありましたよ。変ではありませんでした。神奈川県担当に聞いても別段バッティングもなかったはずです。ですからジャケット6着を現金で取引したと思います。何か問題でも?』
 「バッティングが起きたんだ。しかも運悪いことに、うちのなかでも一番古い取引先の1軒だ。」
 『えっ?でも確認して、OK出たはずですよ…、どこですかその相手の店は?』
 「町田のRさんだ。」
 『町田って、それ東京都ですよ、確かに隣接してるとは思うけど…バッティングって』
 「徒歩数分の距離なんだよ。」
 『はあ?まさか…』
 「実はその川崎の店の住所は、麻生区では有名な飛び地で、川崎市でありながら町田市の中にあったんだよ。地図で確認したら小田急鶴川駅の南側で、そのR店の店の前を通って歩いて5分ぐらいの所にあるらしいんだよ。」
 『げっ(絶句)』
 「しかも、その商品が、R店と同じもので、川崎の店の方がネット価格で安く買った分、上代を割り引いて売っていたんだ。」
 『そうなんですか。得意先管理表の神奈川県内で照らし合わせて同じ区内に無かったのでOKが出たんだと思いますが、地図と駅名までは確認していませんでした。』
 「今から私がR店に行って事情を説明するのだが、あそこの社長は頑固でネット嫌いだからなあ。今回電話があったのも、筋を通さなかったことに立腹しているんだ。」
『筋と言われても…』
「ただ、ネットでの取引が増えるとこういうことも日常茶飯事になるだろうな。どうやって整理していくか、君も考えてくれ。明日営業部と通販チームとで会議をすることになったから。」
 『そうなんですか、すみません本当に。』
 「R店の社長とは長い付き合いだから話せば判ってくれると思うが、当社としてどちらを選択するかだ。まあ、選択の余地はないがな。」 そう言いながら沢田部長はため息をついた。
 2年前にネット取り引きを始めてようやくコンスタントに売り上げが取れてきていた。しかもバッティングと出品商品の価格には気を使っていたところだっただけに、ネット販売にも関わっていた沖田にはかなり辛い出来事であった。

 ■今後のネット販売とリアル店舗との競合をどうするか、専門店が抱える問題を続けざまに体験した沖田にさらなる問題が…