小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 8月 30日(日)
第23話: 「会社の常識と世間の非常識…」
■前回のあらすじ…ネット販売の拡大がリアル店舗に少なからず影響を与えていることに気付かされた沖田であった。そんな時にまた1本の電話が…


「お前のところは、営業マンに他社の悪口を言わせているのか!」と、いきなり凄みの効いた声の電話がかかってきた。たまたま電話を取った沖田は、一瞬にして『これはまずいかも…』と緊張した。
「お宅は?営業の責任者か?」と聞かれた沖田は、とっさに(このまま部長につなげるよりワンクッション置いた方がよさそうだ)と、前職の百貨店担当の時のクレーム処理の感覚がよみがえってきた。
『いえ、部長はただ今外出中で、私は営業の沖田と申しますが、私で宜しければ事情を承りますが…。』と、ゆっくりと丁寧に答えた。わずかな沈黙の後、
「お前んとこは、新規で初めて入った店で、そこの商品にケチをつけて、自分の商品を売り込もうとするんか!そんな営業を会社でやらせてんのか!」と、口調も言葉尻も一瞬で変わった。
『そんなことはありませんが、言葉の行き違いがあったのでしょうか、申し訳ありませんでした。ところで当社の何と言う営業でしょうか?』
「ヤマムラだ。会社では一番若い営業だと言っていた。」
『山村ですね、確かに当社の社員です。昨年入社のまだ若い営業です。大変失礼しました。ところで、他社商品のどう言うことを言ったのでしょうか?』
「お客さんが試着したコートを見ながら、そこよりもうちの方が、デザインもサイズも豊富で、しかもライナー付きなのに安いから人気だとか、お客さんの前で言ってんだぞ。新規で飛び込んできていきなりだ!どう言う教育をしているんだ、お前んとこは。」
『大変申し訳ありません。そのお客様にまで不快な思いをさせてしまいました。お客様とトラブルはありませんでしたでしょうか?』
「鞄からカタログを出そうとしたから、接客中だからまたにしてくれと言って帰ってもらったが、お客様も空気を察してか、何も買わずに帰ってしまった。うちの顧客だぞ!どうしてくれるんだこの損害は!」
聞けばこちらの分が悪いのは当然のことであった。若いとは言え、営業マンの常識さえ疑われてしまった。
『申し訳ありません。二度とそのようなことの無いよう十分注意致します。その件につきまして上司に報告し、改めてご連絡申し上げますので、お名前だけお聞かせ願えませんでしょうか?』
「本人に聞け!今日新規で入った店からクレームが来たと!」
『判りました。ただ、本人がまだ営業から返っておりませんので、それまでに上司からご連絡させて頂きますので、お名前だけお聞かせ下さいませんか?』
「板橋のKだ!」(ガシャン)
『ふ〜。これってまずいよなあ。着いて来いって言うだろうなあ沢田部長は。とにかくそのまま伝えるしかないか。』と沖田。
考えてみれば山村君以外の営業は全員中途採用だから、会社全体で教育らしいものはしていない。それぞれのキャリアで仕事をしてもらい、その人についた部下や後輩が、その人のやり方を踏襲していた。だから外に出てからの営業のやり方は全員が違っていたのだ。
『これは改めて会社で考えなければ、二人目のヤマムラ君が出てくるぞ…』そして聞き耳を立てていた沢田部長の席に行って、改めて報告した。

■次回営業マン教育についての議論が交わされた。その内容は…