小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 9月 27日(日)
第25話: 「 個人力 < チーム力 」
■前回のあらすじ…営業マンの再教育というより、社会人としてのマナーと資質が問題となり、そのことで論議を交わしていた矢先に、妻から沖田にメールが届いた。

『ヒロが高熱を出しました。これから病院へ連れて行くので、愛ちゃんを迎えに行って下さい。』と妻(宏美)からメールが届いた。そう言えば昨夜から長男裕明(1歳)の元気がなく、いつもと違うなと感じていた沖田であった。部長の沢田に「すみません、ちょっと家から急な連絡が入ったので電話してきます。」と会議のテーブルから離れた。
「…ああ、おれ。ヒロどうなの?」
『さっき、熱を測ったら39度2分なのよ。目もうつろだから救急病院に行ってくる。もうじき愛子のお迎えなんだけど、何時になるかわからないからパパ行ってくれない?』
「いや、行きたいのは山々なんだけど、今会議中で、そのあとどうしても外せないアポイントがあるんだよ。」
『えっ、何言ってんの!子供が大変なのよ!』
「仕方ないだろそんなこと言っても。メイちゃんのお母さんにでも頼んで行ってもらってくれよ、この間逆の事があっただろ!」
『あの時はメイちゃんのお父さんが海外出張中で、お母さんが泣きながら私に電話してきたんじゃない。だから私仕事先の課長に頼んでシフトを変えてもらって行ったわよ。でも貴方そこに居るじゃない。他人に頼むよりまず身内でしょ。当たり前じゃない?仕事だから仕方ないって言い方はやめてって前にも言ったじゃない!』
「そうは言っても無理なんだよ、このプロジェクトのプレゼンは俺しかできないんだから。」
『仕事のことなんか言われてもわからないわよ。でも会社なんだから誰か代わりに行ってもらえばいいじゃない。』
「無理言うなよ、ギリギリの人員でやってるんだから…」
『仕事が大変なことは百も承知でお願いしてるのよ、部長にお願いしてよ。私だってもうギリギリなんだから…』(涙声)
「わ、わかった。判ったからちょっと待ってて。」妻の涙声に慌てた沖田が振り向くと、そこに部長の沢田が立っていた。
「すまんな、ちょっと遅いので気になって来たら、なんとなく聞こえてしまった。子供さんが大変なんだろ、行ってやれ。」
「いや、でもこのあとの竹田さんのプレゼンに行かないと…」
「ばかやろう!お前の代わりに行ける奴は会社には何人もいるんだ。でも父親の変わりはお前しか出来ないんだ。だから、行ける時は行ってやれ!それをカバーし合うのがチームだ。次に誰かが同じ状況になったら、お前がそいつの代行で仕事を引き受ければいいんだから。そのために日々仕事の進捗状況を共有しろといつも言ってるだろう。それがこういう時に役立つんだ。仕事と悩みは抱えるな、いいな。」
「はい、有難うございます。では今回だけ、甘えさせて頂きます。竹田さんの件は、例のファイルに報告書が入っていますので、それを見てもらえれば判ります。お願いします。」
「判ったから早く行け!」
「はい。」と沖田。何だかとても肩と心が軽くなったような気がして、会社を飛びだして行った。

■誰のために仕事をするのか・・・次回さらに考えさせられる難問が沖田に降りかかる。