小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 11月 22日(日)
第29話: 見えるサービス、見えない気遣い
■前回のあらすじ…社長室で沖田は、企業HPのあり方の持論を真っ直ぐにぶつけた。河本社長から「再度検討してみる」と言う言葉をもらい安堵して席に戻ると、直営店から「連絡乞う」のメモがあった。

田園都市線二子玉川のSCに入っている直営店の店長からだった。
『どうかしましたか?』と沖田。
「実は先ほど来られたお客様から、愛?T?愛(aitai)の定番のボートネック七分袖のあずき色が5枚欲しいと言われたのです。」
『5枚ですか、すごいですね。えっ?あずき色?それ去年の秋物のことですか?もう社内に在庫はありませんよ。今は夏色で追加生産していますが、あずき色は生産していません。どうしてあずき色なんですか?』
「ええ、よく聞いてみると、先週ネットショップでそれを買ったそうです。とても着心地がよかったので追加で買おうとそこに問い合わせたところ、在庫はないと言われたそうです。そして洗濯表示のメーカー名で検索してうちにたどり着いたらしく、直営店なら沢山あるだろうとそれを持って来られたんです、わざわざ千葉から。」
『千葉から?』
「実はそのお客様、千葉市内の和菓子屋さんの奥さんで、お店の白の制服にこのネックの形と色がよく似合うので、スタッフにも着せようとなったみたいです。でもよく聞くと、どうも値段が違うみたいなので、沖田さんに電話しました。」
『今そのお客様は?』
「こちらから後日連絡することにして、とりあえず帰られました。」
『そのネットショップはなんて言う店か聞きましたか?』
「ファッションMというお店だそうです。」
『ちょっと待って下さいよ…ええっと…あっ、あった、これかあ。』
「どうですか?」
『アウトレットですね。住所は山梨県南アルプス市か、うちのブランドの取引先にはないですが、まさか本体が…あっ、やっぱりそうだ。本体の取引先ですね。でもなんでここにうちのブランドがあるんだろう?ちょっと部長に聞きますから、あとで連絡します。』
すぐに沖田は沢田部長のところに行き、今のいきさつを話した。すると…、
「ファッションMはうちの期末在庫とB品そしてサンプルの販売先の一つだ。今年は2月末ごろに来て、結構買って行ったなあ。ネットショップでも売れているとかで。あのときそう言えば愛?T?愛のサンプルも混ぜて売ったよ、確か。」
『それです!…そうかあ、サンプルだったんだ。』
「千葉のお客さんには正直に言うしかないだろう、在庫はないと言うことで。」
『そうですね、仕方ありませんね。定番ですが、シーズンによって色の変更・追加をして行くと言うことを説明します。しかし、そのファッションMさんも、正規品ではなくサンプル品とか訳ありとかで明記しないとまずいんじゃないですか?今後も起こりますよ。特にサンプルは洗濯表示や品質表示がなかったりしますから。特にネットでは、対面販売じゃない分さらに気を使わないと、対面以上に大変なことになりますよ。』
「うん、ファッションMの社長には私から注意しておくよ。」
『では千葉のお客様には私からいきさつを説明して新色の提案をしますが、上代は下げられませんから、お店のカードポイントをその分サービスに付けますがいいですか?』
「判った、任せる。」

■ネット絡みの行き違いは頻繁に出るだろうなと思いつつ、電話をしようとしたところに総務から内線が入った。