小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

  ======================
主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
======================

2009年 12月 6日(日)
第30話: 財・罪・在…あなたは一体?
■前回のあらすじ…ネットで購入したエンドユーザーが、リアル店舗(直営店)に来店されたが、ネットとの価格設定が違うことに気がついた沖田たちは、今後も想定される問題と対処を考えていたところに総務部から内線が入った。

「はい、沖田です」
『ああ、前田ですが、ちょっと来てもらえますか。』と総務・経理部長の前田からの呼び出しに首を傾げた。
「前田部長に呼ばれましたので行って来ます。」と部長の沢田に言うと「一体何をしでかしたんだ?」と、苦笑いされた。「さあ?」と答える沖田だった。
前田部長は社内の金庫番であり、あらゆることに何故か鼻の利く性格であったので、若い社員には煙たがられる存在だったのだ。
「何でしょうか?」と前田部長の席に行くと、
『ああ、忙しい時にすまんね。実は今、うちで企画を募集しているのは知っていますね。』
「知っています。ホームページにも募集が出ていますよね。」
『そう、そのホームページからの応募で、相沢さんと言う人からメールが来ました。早速社長に伝えると、沖田君に聞いてみてくれと言われたので来てもらったんだ。』
「はあ?」
『その相沢さんは、君が前に勤めていた会社の方みたいなんでね。』
「えっ?と言うことは、ひょっとして相沢浩二ですか?」
『そう、その相沢浩二さんです。』
「ふーん、そうかあ、あいつもとうとう辞めるのか。最後まで頑張ると言っていたんですけど。」
『どんな人ですか?』
「あっ、それで私が呼ばれたんですね。責任重大ですか、ひょっとして。」
『そう深く考えないで。今回はたまたま同じ会社にいた人間がうちにいたからで、採用前にはある程度確認しますから。特に会社都合の退職の場合はね。』
「と言うことは、私も確認されていたんですか?」
『そうですね。君の場合は、会社側の早期希望退職者ということでしたから、逆に惜しまれる人材だったようですね。うちとしては金の卵と思っていますが・・・』
「相沢は同期でした。ただ、彼は企画、僕が営業だったので、実際の仕事振りはあまり良く判りません。人柄も、我々みたいに前に出る営業タイプではなく、大人しく静かでした。でも仕事は熱心にやっていたと思いますし責任感もありました。展示会前にはいつも終電に走っていましたね。お酒は弱かったので、あまり人付き合いは多くなかったですね。」
『そうですか。同期の人がもし入社しても、君の仕事には影響はなさそうですね。』
「はあ、まあ、えっ?採用ですか?」
『まだです。企画部長の最終面接で2人残っていますから。』
「ですよね。私のことは気にしないで、会社の方針で判断して下さい。」
『そのつもりです。ただ、こういう時代なので、将来その人材が、うちにとって【人財】になるか【人罪】になるかをある程度事前に見極めなければなりません。さらに、ただ居るだけの社員は【人在】になってしまうのでね。気分を悪くしないでください。』
「わかりました。僕から本人に伝えることはありませんから…。」
『有難う。参考にさせてもらいますが、あとは社長面接で決まるでしょう。』
「失礼します」そう言ってその場を辞した沖田だが、心中は穏やかではなかった。ただそれをこれ以降口にすることはなかった。席に戻り、気持を切り替えて営業に出た。そして1軒目の既存店に入った時だった。

■取引先に入った沖田の目の前に…