小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 12月 20日(日)
第31話: 「友達ぶるひと…」
■前回のあらすじ…沖田の会社に、以前勤めていた同僚が面接に来て、最終段階まで残っていた。沖田にその人物評価を確認した総務部長とのやりとりのあと、営業に出た沖田が伺った店で…

『あら、沖田君、いいとこに来たわね。懐かしい人たちが来てるわよ。』と、営業で伺った川崎の既存店のオーナーが指さした応接セットの方向に目をやると、
「よお!」と手を挙げて笑顔の相沢浩二と、後輩営業の田村がいた。
『やあ、久しぶり…』と応えた沖田は内心(参ったな)と思っていた。
『オーナー、商談がまだでしたら外で時間つぶしていますよ。』と言って表の駐車場に出た。
そこに追いかけてきたのは相沢だった。
『あれ?商談しなくていいのか?』と、沖田。
「ああ、いいんだ。田村の担当だし、俺はこの前の展示会のお礼と挨拶について来ただけだから。」
『なるほど。』
「聞いているんだろ、会社で。俺やっぱりうちを辞めることにしたんだ。それでお前のところに面接に行ったんだ。たまたま企画の募集していたからさ。」
『ああ、聞いたよ。驚いた。一体何があたんだ…お前が辞めると言うのはよっぽどだろ?』
「まあ、希望退職で辞めた沖田には判らんかもしれんが、結構あれから人材が流出して、しかも各百貨店からも売り場の移動や不採算店の撤退要請が相次ぎ、会社の数字的にも厳しくなったみたいなんだ。」
『(他人事だな)ああ、なんとなく聞いてるよそれは。』
「それでうちの社長が、5つあったブランドを3つに絞ると言って、企画も営業も再編成が行われたんだ。」
『なるほど、配置転換が原因か。』
「まあ、そうだな。一番やりにくい企画チームに配転されたんだ。これはどう考えても肩たたきか嫌がらせとしか考えられなかった。だから辞表を提出したんだ。」
『(あれ?さっき前田部長は会社都合で退職したと言っていたけどなあ)まさか、それだけでか。しかしお前のところは3人目が奥さんのお腹にできたんじゃなかったか?』
「大変なんだよ。だからさ、何とかお前から会社に推薦して欲しいんだ。」
『(ほらきた)いや俺だって入ったばかりでまだまだ発言力もないし、まして企画室のことには口出しできないんだよ。だから、自然の成り行きに任せるしかないんだ。』
「そこを何とか頼むよ、頼れるのはお前しかいないんだよ。俺もお前が居てくれるから心強いんだから…」
『(そんなこと、昔言ったことなかったぞ。都合のいいことばかりだな、相変わらず)いや、本当に何とかしてやりたいけど、こればかりは何もできないよ。』
「そうか、やっぱり友達甲斐のないやつだな。」
『(おいおい、さっきと違うだろ)悪いな。』と沖田。
「わかった、自分で何とか頑張ってみるさ。有難う、お前もがんばれよ、新ブランドを任されているんだろ。成績を上げないと首になるかも知れんぞ」
『(あれ、今度は嫌味か?)そうだな、俺もがんばるさ。あっ、田村君が呼んでるぞ、早く行ってやれ。』
「じゃあ、またな。」
『(今度会う時は、社内だろうか?社外だろうか?…)またな。』と、気分が落ち込む沖田は、【社会人の友達】とは一体何なのかを、ふと考えさせられた。
そして、商談の番が回ってきた沖田は、店のオーナーから意外な話しを聞かされた。

■店のオーナーが耳打ちした内容は、沖田の想像をはるかに超える内容であった。