小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年 1月 31日(日)
第34話: 「地方のちから…」
■前回のあらすじ…取引高によって営業方法が変わるのは仕方ないとしても、そのフォローに問題があった。そして過去誰一人として店に行ったことがなかったS店の社長から届いた手紙に、沖田はすぐに反応した。


早速にアポイントを入れると、社長は喜んでくれた。その喜び様に沖田は何だか照れくさくもうれしかった。そして、それから3日後に、沖田としては10年ぶりの郡山駅前に立った。すると「沖田さあ〜ん、こっち、こっち。」と駅前ロータリーの端に停めてあった赤い軽自動車から手を振る女性がいた。
『こんにちは。今日は宜しくお願いします。』
「こちらこそ、遠いところすみません。うちの人が無理言って…」
『いえ大丈夫です。私もあれだけ熱心な手紙を書いた社長さんに会ってみたいと思ったんです。それにしてもきれいになりましたねこの駅前も…』
「郡山に来たことがあるんですか?」
『もう10年以上前です。』
「そうですか。じゃあまだあれはなかったですよね、あれ。」
『あれ何ですか?』
「ビッグアイっていう商業ビルで、当初は百貨店を誘致して、駅前再開発にと意気込んでいたみたいだけど、百貨店が来なくなった途端にトーンダウン。でもあの中に高校が入っているのよ。」
『へえ〜』
「郡山は福島県で、いわき市についで2番目に人口の多い街なのに、県庁もないし、目立った公共施設もない。商店街空は空き家が目立つし、知らない人もいるんですよ、福島県だということ。」
『ここだけじゃないですよ、地方はみな似たり寄ったりです。あっ失礼しました。』
「いいんです。うちは市内じゃないから何とかやっていけてるし、お客様も結構遠方から来てくれるんですよ。ああ、あれです。」と指さした方向に目をやった沖田は、自分の想像をはるかに超えた店の出現に言葉を無くした。
『えっ?あれですか?あれ全部?』
「そうです、だから大変なんです。まあ、そのことはうちの人から聞いて下さい。うちの娘たちも店にいますから。」
市内から車で10分ぐらいの丘陵地を通り抜け、とてものどかな道程に、素晴らしい美術館の建物もあった。そんな風景に溶け込むように、それでいて堂々と、来るものをすべて暖かく迎えてくれる幻想的なガラス張りの建物があった。確かにファッションを扱っていると思われるのだが、その棟続きに堂々の日本家屋もあった。ここは地方なのか、青山なのか錯覚に陥ってしまった。
『すごい建物ですね。』
「大したことないですよ、外見だけ。あのガラス張りの洋風な建物が娘たちの店で、日本家屋が元々私たちの家だったの。今は改装してお店にしてますけど。」
『なるほど。でもここに初めて来た営業はみな驚くでしょう?』
「娘たちの仕入れ先はみな来たみたいですけど、こちらの方は、うちの人が偏屈だから無理して呼ばなくていいって言うんです。来れば本当に喜ぶのに…」
『で、うちの営業はまだ誰も来ていない。と言うことは、この娘さんたちの店も知らないんだ。』
「はい。でも娘がホームページを作っているから探せば出ますよ。私は出来ないけど。さあ着きました。どうぞ、あっあれが主人です」
玄関から出てきた社長は、真黒に日焼けした顔に真っ白な歯が印象的な、どこかで見たことのある俳優の様な紳士だった。

■何をもって地方とし、何をもって都会とするのか…情報もファッションも全てが同時進行で動く現代において、その役割は何なのか。社長の考え方に感銘する沖田は次回。