小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年 2月 28日(日)
第36話: 「縁と円…」
■前回のあらすじ…オーナーの説明に感動を覚えた沖田に、さらに驚きの顧客化の秘密が明かされた。

「沖田さん、ちょっと面白いものをお見せしましょう。」と言って佐川オーナーは店の奥へと歩き出した。
「さあ、どうぞ。」と手招きされた沖田は、日本家屋の店の裏へ出て驚いた。そこには沢山の小さな菜園があったのだ。
「ここは、私のじい様の畑だったんですが、私達ではそれを継げないので、小さな菜園にして貸し出したのです。」
『すごい数ですね。しかも見事なキュウリやトマトが一杯あるし…。』
「これみんなうちの顧客が作ったものですよ。」
『顧客って?お店の?』
「そうです。実は、娘の店と一緒にポイントカードを発行していて、そのポイントでお買い物もできるし、畑も持てるんです、面白いでしょ。私達も最初は冗談のつもりで始めたんですが、今ではすっかり定着して、遠路はるばる東京から来られる方もいるほどです。」
『東京から…?』
「うちの娘がHPのブログに畑のことを書いたらしいんですが、それが何だか評判になったみたいです。それを見たある娘さんが家族と一緒に店に来て、母子が服を買っている間に父親が畑をいじって1日楽しんでいますよ。」
『ブティックと畑かあ…この発想は絶対できませんね。』
「それだけじゃないんです。その出来た新鮮な野菜を息子のレストランで、仕入しますからお金になるんです。」
『えっ?息子さんのレストラン?』
「あれ?家内が言いませんでしたか?ほら娘の店の横に小さなレストランが見えるでしょ。あれが息子の店です。ランチは結構いけますよ。」
『と言うことは、ブティックのお客様が買い物をしてランチを食べて、その食材がお客様の作った野菜だったりするわけですか!それはお客様も喜ぶでしょうね。』
「かなり喜ばれますし、お友達を連れてこられて自慢しているみたいですよ。これは私のトマトだって言って。」笑顔のオーナーは、本当に楽しそうだった。
「月に1回、料理教室もやっています。皆さんの野菜を使って…」
『それはうけるでしょう。しかし、なんて言うか、お金と物がこの敷地内でうまく回っていますよね。これ最初から考えていたんですか?』
「いいえ、先程も言ったように、親は親、娘は娘、息子は息子で、自分たちが出来ることを一生懸命考えたらこうなったんです。どうすればお客様が喜んでもらえるのかとね。それを互いに披露し合ったら、じゃあこう繋げればいいんじゃないかで、このサイクルが出来上がったんですよ。」
『恥ずかしいですが私には考えが及びません。我々は、“顧客が喜ぶ=自分たちの利益”と考えがちですが、オーナーの考え方では、“顧客が喜ぶ=みんなが楽しい”と言う原理があるんですね。そうだ、原理だ!自然の摂理と原理がベースにあるんですね。』
「やっぱり判ってもらえましたね。私たちは、決して無理はしないのです。でも誰もが判り易いことは徹底してやろうと言っています。だから、家内が沖田さんと話した時に何か縁を感じたんじゃないですかね。どうですか?」
『そうですね、縁の答えは現場にありました。店やそのお客様を知らないで商売できると思っていた我々営業が本当に恥ずかしいです。早速帰って営業の原理は何かを皆で考えてみようと思います。』
「またいつでも遊びに来てください。ご家族で畑いじりも楽しいですよ。」

■想像もしなかった出来事の連続に刺激を受けた沖田が社に戻ると、パソコンにメール着信の知らせが…