小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年 4月 11日(日)
第39話: 「守るものがありました!」
■前回のあらすじ…大垣サブチーフの退職にともなって、愛?T?愛(aitai)の企画再編成がおこなわれることを沢田部長から聞いた沖田は、混乱する頭のまま企画室に向かった。

誰に対して怒っているのか自分でも判らないまま歩いて行くと、ちょうど部屋から大垣サブチーフが出てきた。
「お疲れ様です。」と硬い表情の沖田。
『どうしたの?怖い顔して…』と二つ年上の大垣サブチーフが笑顔で答えた。
「サブチーフ、辞めるって本当ですか?」といきなり沖田が尋ねた。
『えっ?…明日の朝礼で発表するって社長が言ってたけど、もう耳に入ったんだ。』
「沢田部長からたった今聞きました。」
『ごめんね。せっかく一緒に愛?T?愛を伸ばそうと決めたばかりだったのに…』
「いえ、サブチーフを責めてるんじゃないんです。ただこの先ブランドがどうなるのか何も判らないことが不安で、とにかく会って確かめようと思ったんです。」
『本当にごめんなさい。先にリーダーの沖田さんに言うべきだったかな。ただ私もまさかチーフが音を上げるとは思っていなかったから驚いているの。』
「うちの企画では無理なんですか?」
『今の私が人事に口出しは出来ないけれど、少しだけ社員みんなが我慢すれば出来ないこともないわ。ただ、社員が我慢できてもお客様が我慢できるかどうか。トレンドじゃなくてただの会社都合で変わった企画の回復を待ってくれるほど市場は甘くないと思うの。』
「それはそうですが…。」
『例え売れていたブランドでも、1年間ブランド訴求力が落ちたら、それはもう取り返しがつかないと思う。そうならないために企画はみんな必死にそのブランドを維持しているわ。だから、旬なうちに外部ブレーンに協力してもらってブランドを守ることもありだと思う。』
「でも、オリジナリティという点では…」
『じゃあオリジナリティって何?究極はデザイナーズブランドであり、1代限りよ。でもヨーロッパのブランドのように、百年以上も続くブランドがあるのはなぜ?私には、ブランド力をファン以上の信者が育てているんじゃないかと思うの。だからこそ、外から新たな堆肥も水も光もいるのよ。ひょっとするとそれまでもブランドが培養しているかも知れない。そしてブランドと言う芽が育って花が咲いて、種が出来てまた翌年花になる。だから続くのよ。』
「と言うことは、サブチーフも外部企画に賛成なんですね。」
『愛?T?愛のスピリッツを残すために…と言う意味でね。』
「託せる人に心当たりがあるんですか?」
『一人だけいる。チーフに来週会ってもらいます。』
「サブチーフのお知り合いですか?」
『専門学校の同級生で、大阪のL社にいたんだけど、先月結婚退職して横浜に引っ越して来たの。それこそまさに神の巡り会わせよ!』興奮気味に話すサブチーフに、
「サブチーフが押す方なら安心ですね。L社のどのブランドをされていたんですか?」
『G−Oneのチーフよ』
「えっ?あのG−Oneですか。それこそL社が大変なんじゃないんですか?」
『あっちはうちと違って人材豊富よ!』
「見込みは?」
『5分5分』
「なぜ?」
『永い間専業主婦に憧れていたんだって!』
「なんと…」

かすかな光明に少し落ち着いた沖田であった。持ち前のポジティブな性格が「心配するななんとかなる」と言うあの言葉を思い出させた。そしてその人と意外な場面で遭遇した。