小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年 6月 13日(日)
第43話: 「これで厳しい?」
■前回のあらすじ…新しい企画デザイナーの面接を機会に、かねてから社長が提案していた事業部制をとにかく営業部から確立するようにとの指示が出た。それに対して営業マンの反応は…

翌朝、出張帰りの営業マンたちが次々と出社すると、営業アシスタントの安原さんから、30分後に営業部ミーティングが行われることが伝達された。その安原さんの顔に何故かいつもの笑顔がなかったことに、営業マンたちは違う空気を感じた。
営業部の構成は沢田部長以下、ベテラン太田、中堅の金本、福島、五十川、若手の藤原、新人の山村、そして沖田と直営店MDの宮永、アシスタント安原の総勢10名であった。
そして30分後ショウルームのテーブルに集まった営業マンに向かって沢田部長から…
「今日緊急に集まってもらったのは、実はこらからの会社の方針を決めると言っても過言ではない重要なことだからだ。」
皆、顔が引き締まる。
「1年前にも一度社長から話しがあったんだが、その時はまだ無理と言うことで私の方が断ったことだが、今回は会社の置かれた状況も皆判っているように厳しいので、それを踏まえた上で我々営業部が率先して動くことになった。」
…じっと聞く営業マン達
「会社の売上が落ち込んで来ていることは毎月の定例会議で判っていると思う。我々だけでなく、直営店各店も売り上げが落ちている。売上を上げられるのは会社の中で唯一営業部だけなのは当たり前だが、このままの成績では世に言うリストラもないではない。」
『あるんですか?』と不安そうな大阪出身福島。
「創業から30年のうちの会社が、今まで社員を解雇したことがないのが社長の自慢だった。でもこの会社の厳しい状況になったことも今までなかったことだ。今ならまだ回復できる資力も社員も十分にあると考えての社長からの提案だ。」一息ついてお茶を飲む沢田部長。
それにつられて皆もお茶を飲み始めた。
「来年1月の夏展フォローから営業部内を徐々にブランド制の動きに変更し、3月AW展示会以降、事業部としての動きにしていこうと思う。」
『もうそのことは決定なんですね、』とベテラン太田。
「大筋は決定した。」と沢田部長。
『営業部が独立するのではなくて、ブランドが独立していくということなんでしょうか?』と中堅の金本。
「そうだな、事業部制と言う言い方が誤解を招くかもしれないから、今後組織的には営業本部の中の第1事業部、第2事業部となって、それぞれのブランドが所属し、そこにかかわるスタッフはその事業部内の数字をあげる動きをして、評価と責任を明確にしていく。」
『でも、単純に考えて経費が倍になりませんか?』と五十川。
「売上が今より落ち込めば倍になる。」と厳しい顔の沢田部長。
『誰がどちらの事業部になるかはもう決められているのですか?』と沖田。
「それはまだ決めていない。とにかく今日は事業部制のことを理解して、強い営業部を作るという認識を持ってもらいたいので集まってもらった。これに伴い、全社の組織変更の発表は来月行われる。以上」


■厳しい状況が自分の会社にも起こっていることを改めて感じた営業マンたちは、それぞれの仕事に戻って行ったが、その姿を見ていた沖田は…