小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年 6月 27日(日)
第44話: 「営業の醍醐味とは…
■前回のあらすじ…沢田部長から営業本部再編成の話し聞き、それぞれの営業マンも会社の状況が切実なものだと実感した。そのミーティングが終了し営業マンの会話を聞いた沖田は…

中堅営業の金本・福島の立ち話がそれとなく聞こえてきた。
「どっちがいい?」
「やっぱり本体ブランドやろ。」
「おまえもそうか、新ブランドの営業だと今から新規ばかりで数字が上がらず、どぶ板営業やっても、評価が低くて結局ボーナスに関わるよな。」
「でもどうやって決まるんやろか、何か怖いなあ…」
そんな会話を耳にした瞬間、沖田は悲しさより先に、どこかで聞いたような気がして天井を見上げた。
『そうだ、あの時もこんな会話があったな。』と沖田は遠い過去を思いだした。
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沖田が大学卒業後、前の会社に就職し、2ヶ月の社内研修が終了して、いざ配属が決定するという場面のことだった。
本社会議室に集められた販売スタッフも含めた新入社員30名の中で、沖田の前の椅子に座った二人の営業志望の会話だった。
A君:「お前専門店部と百貨店部とどっちを希望した?」
B君:「そりゃあ百貨店部だよ。なんたってこの会社の花形部署だぜ。全国の百貨店に出張行けて、フロアーのスタッフと打ち合わせすりゃ済むらしい。部署の数字も上がっているから新人でも評価が良いらしい。その逆に専門店部は、まず名刺を獲得するために飛び込みで訪問で、朝から晩まで新規して、それを毎日毎日やるらしい。あと残務処理も多いから残業が多いって言ってたぞ。」
A君:「毎日飛び込み営業か?」
B君:「先輩から聞いたんだから間違いない。それで展示会に新規客が来なかったらかなり評価が下がるらしいんだ。」
A君:「ほんとかよ、そんなこと研修では言ってなかったじゃないか…」
B君:「だから、俺は希望を百貨店部にしたんだ。」
A君「しまったあ、俺専門店部の方が人数が少ないから、結構役職が上がるのが早いと思って専門店部希望にしちゃったよ。参ったなあ…」
そんな会話を後ろで聞きながら、沖田は気持ちが滅入ってきた。こんなやつらと同期なんてこれから先どうなるんだろうと。
B君:「沖田、お前はどっち書いたんだ?」
と突然振り向いて聞いてきた。
沖田:「ああ、俺は専門店部希望って書いたよ」
B君:「へえ〜、勇気あるう!」
沖田:「だって営業の醍醐味は自分で開拓して顧客にして行くことだろ。百貨店のマネージャーは俺達新人なんかまず相手にしないだろ。」
B君:「お前はいいよ、学生時代にバイトで戸別訪問の飛び込みセールスもやってたんだからさ。俺はカッコよく営業したいぜ、バリっとスーツ着て…」
『皆、おはよう』と言って、総務部長が入室してきた。そして配属後の説明がされ、いよいよ配属発表の時が来た。
結果は…どよめきとともに笑顔とタメ息が混じっていった。

■その結果に新人たちの思いが交錯した。当の沖田は果たして…