小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年 7月27日(火)
第46話: 「これから立ち向かう1年に」
■前回のあらすじ…営業部再編成に期待と不安がよぎる各営業マン。その思いは様々であった。そんな中、沢田部長から相談を受けた沖田は…

「沖田君ちょっと…」と背後を通りがかった沢田部長から肩を叩かれて、一緒に1階のロビーに出た。そこはちょうど沖田の会社が入っているビルの自販機が並んでいるスペースだった。立ち話で談笑するにはちょうど良いスペースだった。
『何か?』缶コーヒーを部長から受け取って聞いた。
「先日のデザイナーの土井さんから返事が来た。」
『どうだったんですか?』
「とりあえず1年と言う期間限定の契約で良ければやらせてもらいたいと言ってきたそうだ。ただその後のことは状況によるとも。」
『えっ?1年ですか・・・』
「そうだ、彼女もこの業界からすっかり離れようと思っていたらしいが、ご主人が仕事の都合で急に1年間中国に行くことになったので、その間ならということらしい。」
『えっ?土井マネージャーが中国に。そうですか・・・』
「そうか、君は知り合いだったな。」
『はい。でも良かった、のかなあ。1年だけかあ。』
「まあ、1年後の状況はお互いに判らないからその時に考えようや。とにかくは営業部だ。」
『で、なんでしたっけ、お話しというのは…』
「そう、沖田君はそのまま愛?T?愛(aitai)ブランドをやってもらいたいのだが、君とペアを組まそうと思っていた五十川君が会社を辞めたいと言ってきた。」
『五十川さんが!…突然ですね。僕も五十川さんならいいなあと思っていたんです。でもなぜ?』
「前々からそういう話しで私の所に来ていたんだ。その度に活をいれては止めさせたのだが、今回ばかりは意思は固そうだ。」
『どういうことですか?』
「自分でやりたいらしい。営業エージェントとして色々なメーカーと契約して営業をしたいらしい。」
『そうですか、五十川さんなら実力もあるし、顧客も沢山ついているから成功すると思いますけど残念だなあ。』
「もちろんうちもそのまま契約するつもりだ。彼の実力は知っているからね。社長も応援してやろうと言っているし。」
『五十川さんはそれでいいでしょうが…』
「君のところには藤原君を配置するつもりだ。いいね。」
『反論は出来ません。決定には従いますが、でもキャリアが少ないから結局僕が教えないといけないんですね。』
「君ならできるさ。それも期待しての配置だから。」
『デザイナーは1年だし、営業は若手ノンキャリアで、その中で結果を出さなければならないんですよね、ふー。』タメ息がもれた沖田だった。
「ではそれで頼む。明日の朝礼ですべて発表する。宜しく。」と言って足早に部長はエレベーターに乗り込んで行った。
残った沖田は手に持った缶コーヒーを飲み干したが、苦かったのは冷めたからではないような気がした。そしてなぜか口から出た言葉があった。「乗り越えられない試練を神様は与えない!」一体どこで聞いたんだろうかと考えながらエレベーターに乗り込んだ。

■前途洋々のつもりだったが、沢田部長からの話しで少し気持ちが萎えてきた。これからどう立ち向かえば良いのか頭をめぐらす沖田だった。時間はたったの1年。