小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年 8月 10日(火)
第47話: 「的を射る矢は…」
■前回のあらすじ…企画も営業も含め、新たな組織編成で動き始めた。ただ、その成果を出さなければならない期限は、わずか1年と区切られた。そこで沖田が起こした行動は…

沢田部長から組織編成の内示を受けた翌朝、全社朝礼で河本社長から今回の組織変更の説明がなされた。今月末で決算を迎え、会社として来期からの新たな動きをするための改革だという認識が、全社員に判り易く説明された。そのあたりの話しの上手さは『さすが』と感じた沖田だった。
営業部では事前に根回しが行われていたので、社長からの説明はそれを補足するものだった。
その後、営業部でのミーティングが行われ、沢田部長から改めて説明があった。
「今回の組織編成は、将来我が社が生き残るための社運を賭けたものだと思ってもらいたい。すでに説明しているから今更何も言わないが、今までのような動き方では他社に勝てないだけでなく、業界で生き残れないと改めて認識して欲しい。そのためのトライ&エラーに恐れず前へ進もうと思う。営業部が前に進まなくなった瞬間に会社は亡くなる。他の社員はもちろん、君たちの家族もその瞬間から今までのような生活が出来なくなると思って欲しい。だから今動くんだと。」
聞いていた営業全員、真剣な顔つきだった。
今まで頭でわかっていてもその実感がわかず、同業他社で、リストラや希望退職が行われても対岸の火事にしか考えていなかったのだ。それが今回の組織変更で、自分の足元に火が着いたことを実感したのだから受け方も真剣だった。
「1月の展示会から、説明したようにブランドごとでの独立採算方式だから、やればやるだけの評価は得られる。が、やらなければそれまでだ。答えは明確だからそのつもりでいてくれ。そのための提案も受け付けるから、遠慮なく言って来てくれ。以上」
沢田部長の説明を聞いて、沖田は内心燃えた。そして早速部長の席に近づいていった。
『部長、早速ですが提案させて頂きたいことがあります。』
「おっ、早いな。なんだ?」
『実は、うちのブランドで一人採用して欲しい人がいます。』
「営業か?」
『いえ、営業アシスタントです。と言うよりマルチな人ですが…』
「女性か?」
『そうです。前の会社で僕と一緒に仕事していたのですが、とにかくすごい人です。外営業は出来ませんが、社内での営業補佐と取引き先フォロー、そして販促的なパソコン業務まで何でもこなせます。彼女が居れば、僕らは安心して営業出来ます。』
「その人を入れると君のブランドはどうなるんだ?」
『僕と藤原君の営業二人と彼女。平原さんと言いますが、その3人で5人分の仕事が出来ます。しかも実質の営業実働経費は2人分です。』
「その平原さんは今何をしているんだ?」
『専業主婦です。』
「働いてくれるのか?」
『一応OKです。実はもう打診しています。』
「わかった。社長には私から話しておく。すでに事業部体制の矢は放たれたのだから、目標達成の遂行と責任は各リーダーが負う。これからは君も俺も真剣勝負だからな。」
『有難うございます。』

■真剣勝負と言われたことが、ある意味嬉しかった沖田は、早速自分の部署の目標と行動予定を組み始めた。そんな時に携帯にメールが届いた。平原さんからだった。