小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年10月 31日(日)
第53話:「出来るかどうか?は、答えじゃない!」
■前回のあらすじ…合同展に参加出来ればと、その参加企業の先輩に話を聞きに行った沖田達。その舞台裏の事情を知り、壁にぶつかった沖田に沢田部長がひと言。

「どうだったんだ?」と沢田部長。
その問いかけに、沖田と藤原は、参加企業の内藤社長が「もう参加しない」との経緯を話した。そして、実際にはかなり人間模様が難しく、そこに例え参加できたとしても果たして良い結果が出るのかどうかは疑問だと素直に話した。
 「そうか、やはりそうなるんだよなあ…どこにでもいるよ。最初の人達の血のにじむような努力を知らずに、美味しいところだけを食べようとするやつが…。でも我々も実はその口になりかけていたのかも知れんぞ。他人のことをとやかく言える立場じゃないんじゃないのか?」といつもより辛口な沢田部長。
 『そうですね。僕らもあわよくば、その合同展に参加すればうまくいくんじゃないかって期待していましたから…』と沖田。
 「でも、そうなると今後僕らはどうすればいいんでしょう?」と不安そうな藤原。
 「だから、その血のにじむような努力をすればいいんじゃないのか?」と沢田部長がサラッとひと言。
 『えっ?と言うことは、我々が合同展をやるんですか?』と沖田。
 「そうさ、彼らが出来て君たちが出来ないはずはないだろ。やってみろよ。」と沢田部長。
 『しかし、組む相手がいないし、一体どうやれば良いんですか?』と不安な沖田。
 「組む相手は心当たりがあるんだ。以前から私の友人、ニットメーカーなんだけど、合同展をやりたいと言っていたんだ。彼もきっかけがなかったからなんだけど、今回良いタイミングだから聞いてみるよ。」と沢田部長は携帯を手に席に戻った。そして数分後。
「OKだ。あと1社もやりたがっているそうだ。そちらはバッグメーカーだからバッティングもないだろうとさ。」と笑顔の部長。
 『でも、日程や場所やほかに色々あるんですよね。それに…』と沖田が言いかけると、
 「ばかやろう、何をウダウダ言ってるんだ。出来るかどうかじゃなくてやるんだよ、君らが動くのを他のみんなは待っているんじゃないのか。今までのようなやり方では通用しないと言っていたのは誰なんだ。しっかりしろ!」と、久しぶりに活を入れた沢田部長。
 『すみません。早速その方に会って相談してきます。』と直立の沖田と藤原。
 「じゃあ、場所を教えるからすぐに行って来い。とにかく話しをしなけりゃ前に進まんだろ。ほら、ここの児島社長に会いに行け。」とメモを書いて渡す。
 『行ってきます。』と沖田と藤原は飛び出した。
 二人を見送ったデザイナーの土井が沢田部長の席に近づいて言った。
『部長、有難うございます。』
「うん?ああ、あんなもんで火が着いたかな?」と苦笑いの沢田。
『私にも火がつきましたよ。結果はわかりませんが、沖田さん達が一生懸命動いてくれれば私達企画も応えますよ。』とベテランの土井らしい言葉に、
「さすが、百戦錬磨の土井さんだね、頼もしい限りだ。何とか一人前にしたいからね彼らもこのブランドも…」ぼそっと応える沢田。
『私も一から頑張ります!』と笑顔の土井。
キャリアのある二人だからこそ判る試練だった。決して甘いものではないことも…。

■そんなことも知らないで飛び出した二人は、久しぶりの部長の「活」に闘志がみなぎっていた。そして初めて会った児島社長とは…