小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2011年 1月 13日(木)
第58話:「山、動く。 心、ときめく…」
■前回のあらすじ…河本社長に合同展をやることの本当の狙いを聞かされ、自分の気持ちをぶつけた沖田は、やるべきことが何なのかを改めて確認させられたこととなった。そして席に戻ると…

机のパソコンのメール着信ランプが点滅していることに「またイタズラかあ、最近多いなあ…」と独り言を言いながらメールボックスを開くと何通かのメールの中に、「合同展の件」という表題があった。
『ん?誰からだろう…』と差出人を見ると「wadaken@・・・」と言う見覚えのないアドレスがあった。
「初めまして、株式会社大和田の和田健太郎と申します。突然のメールをお許しください。
実は、先程株式会社カヤマの児島社長から、合同展に参加しないかとの連絡があり、元々そう言う話しが合ったらぜひにとお願いしていたので、早速沖田さんのアドレスを聞きメール致しました。」と言う出だしだった。
『そう言えば、児島社長が「知り合いのバッグメーカーが出たがっている」と言ってたよなあ…』と、続きをスクロールした。
「当社は、浅草に本社を置く小さなバッグメーカーです。私は代表の和田健太郎と申します。会社は創業明治35年と古いのですが、私はその3代目です。バッグ業界も世間同様の不況下にあり、今のままでは先はないと、販路を変えたく児島社長に相談しておりました。とはいえ、大きな合同展に参加出来る程の余裕もなく、さりとて何か良い方法はないものかと模索しておりました。そんな折にアパレル合同展に参加してその専門店に売ってはどうかとのアドバイスを頂いておりました。」
『結構長いぞこれ…』と更にスクロールする沖田。
「私どものバッグ業界で、我々が直接専門店に卸すことはありません。1次・2次問屋が間に入りますから、我々はどこに売られるのかは全く知りません。そして何よりも業界自体の厳しさから、さらに利益率も悪化しています。となれば自社で直接卸してもいいのではないかと言うこととなりました。ただ、そうはいっても今までの問屋さんに同じブランドで迷惑をかけることもできないので、アパレル専門店専用のブランドを作ったのです。それをどうやって営業していこうかと悩んでいたのです。ぜひ御社の販売ノウハウをご教授頂き、合同展の仲間に入れて頂ければと願っております。どうぞ宜しくお願い致します。思いつくままに書き連ねましたこと深くお詫びし、最後までお読み頂いたことに感謝します。株式会社大和田 和田健太郎」
『う〜ん、重いなあ…』と沖田はそのメールを沢田部長に転送した。
受け取った沢田部長も、
「一度会って話を聞いてみろよ。もう乗りかかった船だ。」と、案外軽い。
『えっ?私がですか?』と沖田。
「そうさ、もう合同展を進めることは社長も了解済みだし、あとはメンバーとやり方だろ。もう後戻りはできないんだし、進むしかないんじゃないのか。」と、沖田に委ねる沢田部長。
『判りました。腹をくくります。どうせなら、くよくよ考えるより楽しい方がいいですもんね。よっしゃ〜、そうとなれば善は急げ…』と、いつもの沖田に戻った。そして早速メールの返信をした。
『こんにちは。メール有難うございました。早速にお会いしてお話をお聞きしたいのですが、ご都合はいかがでしょうか?…』

■動き始めた沖田の呼びかけに、苦悩の和田社長が出した提案は…