小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2011年 2月12 日(土)
第60話:「光、その先…」
■前回のあらすじ…合同展に参加したいという浅草の老舗バッグメーカーに訪問した沖田は、社長から、将来4代目になるという営業部長を紹介された。

合同展の担当として紹介された長男で営業部長の和田健二とともに、明日から中国出張でその準備に忙しい社長室から営業部の部屋に移動した。
どこにでもあるような営業部の雰囲気が漂っていたが、唯一違うのは何とも言えない静けさだった。早速沖田が切り出した。
『そう言えば、和田部長はおいくつになられるんですか?』と沖田。
「今年31になります。沖田さんは?」と和田。
『33です。』
「あっ、近いんですね。もっと上かと思っていました。だったらもっと気軽に話せますね。僕のことも健二と呼んで下さい。」と素直な健二。
『上って、……じゃあ健二さん、先程から気になっていたのですが、最初は合同展に出ることは躊躇していたとか。それはなぜですか?』とこちらも正直な沖田。
「実は、うちが合同展に参加してお客さんを呼べるのかどうか不安だったんです。他の企業さんに迷惑をかけるんじゃないかと思って二の足を踏んでいたんです。それと…」
『それと?』
「ただ利用されているんじゃないかと思って…」
『利用?』
「そうです。本来ならアパレル企業の合同展なのに、空きがあるから呼ばれたのかなって、あっ、気を悪くしないでください。」と慌てる健二。
『全然。』と手を振る沖田。
「社長が児島社長に相談して、一緒に合同展に出られるって喜んでいたんですが、今のうちのスタッフで動けるのかなって正直不安でした。」と健二。
『それはどういう?』と沖田。
「ご覧になって判るように、誰もいないですよね。」
『皆さん営業に?』
「いえ、顔なじみの問屋さんに行ってるだけなんです。中でも3人は、55歳以上のベテランですから、今更新しい販路拡大は出来ないと言ってきます。結局あと数年で定年ですからそれまでは会社は持つだろうって高をくくっているんです。」と苦り顔の健二。
「みな私が小さい時から知っている人達ですから、私が何を言っても聞きませんし、逆に説教されます。」と健二。
『やはりそうでしたか。何となく歴史のある会社だからそんなこともあるだろうなと予測はしていましたが…若い人はいないんですか?』と沖田。
「居ましたが、皆辞めて行きました。残ったのは30代の女性2人だけです。」
『居るじゃないですか。まだいけますよ。』と沖田。
「ええ、彼女たちを何とか問屋と違う新しいチャネル営業にしたいんです。今回それができる場かどうかも知りたかったんです。だから利用されるだけなら彼女たちに申し訳ないから辞めようと思っていたんです、実は。」と真剣なまなざしの健二に、真っすぐ見つめ直した沖田は、
『やりましょうよ、私も全力で動きますから。』
「沖田さんとなら出来そうな気がするし、何だか光が見えた気がします。やりましょう、何でも言って下さい。」と差し出した右手に沖田もがっちりと応えた。つながった手から互いに熱いモノを感じた。
「ところで、いつどこでやるんですか?」と笑顔の健二。
『それがまだ何も決まってないんです』と今度は沖田が困り顔。
「えっ?まだ何も?これからってことですか?」と不安そうな健二。
『そう、これから…。』か細い声の沖田だった。

■かみ合った歯車だが、勢いだけでは何ともならない壁が若い二人に立ちはだかった。