小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

  ======================
主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
======================

2011年 5月15日(日)
第66話:「会社で通るのは無理か道理か、それとも…」
■前回のあらすじ…合同展参加者のメモを見た河本社長がいきなり本体ブランドも参加すると言い出した。

「どうした血相を変えて?」と河本社長が、真剣な眼差しの沖田と沢田部長を見て言った。
『はい、先ほど部長から、「社長が本体ブランドも参加させる」と聞いて…』と早速沖田。
「ああ、そのつもりだが場所が狭いのか?」と社長。
『いえ、それもそうなんですが、昨日各社の担当者が集まって決起集会を行いました。そこで、レイアウトや役割分担、集客の方法等も具体的に決めたところなんです』と沖田。
『そして今朝部長からいきなりそれを聞いたので、なぜ突然社長が参加されようとしたのかをお聞きしたくて…』と続ける沖田。
「今さら何を言うんだという顔だな」と苦笑いの社長。
『他社を説得できないと思いまして』と沖田。
「うちは今回の主催者だし、2社分の費用も出しますから2ブランド出ますと言えばいいんじゃないの…」と強引な社長。
『そんなこと言ったらみんな引きますよ。そうでなくても昨日は(機会均等、チャンスは平等、費用も折半)という判り易い標語みたいな基準を決めたばかりなんです。それをいきなりうちが崩すのものどうかと思います。それより社長が参加をこだわる理由とは一体何なんでしょうか?なんでも今回参加の太田圭子さんに関係ありそうですけど…』と突っ込む沖田。
「君は、太田圭子さんのこと知らずに合同展の話しを進めていたのか?」と河本社長。
『はい?太田さんは個人でやっているアクセサリー・デザイナーで、アイラインの横川さんの紹介だから、まあ別段突っ込んで素性も聞いていませんが…それが何か?』と沖田。
「本当に知らなかったの?」と驚く社長が、沢田部長に目を向けると、
「私も知りませんが、どなたなんですか?その太田さんとは…」と部長も顔を傾けた。
「部長もか。う〜ん。実はこの太田さん本人ではなくて、その父親の方なんだよ。」と社長。
『誰なんですか?その父親って?』と興味深々の沖田。
「実は、北陸から信越にかけてのロードサイドに、大型の雑貨店舗を20店舗経営している株式会社アランの社長なんだよ。会社名ぐらい聞いたことあるだろ?」と聞く社長に、うなずく二人。
「そのアランが、今後都心を中心にアパレルと組んで、富裕層を狙った全く新しい大人向けの店を出すらしい。ただ、アパレルに関しては全く予備知識がないので、娘の圭子さんの意見を尊重するようだと、私もある人から聞いたばかりだったのだ。その直後に太田圭子さんの名前がメモにあったから驚いたんだ。」と興奮気味の社長。
『つまり、その太田圭子さんに本体ブランドを見てもらって、あわよくばということですね。』と言葉を選ぶ沖田。
「おいおい、これはうちにとっても大きなチャンスなんだよ。百貨店を広げるのではなく、新たな販売ルートをと思った矢先に、そのキーパーソンが目の前に居た、ということだ。どうかな?理解してくれたかな?」とゴリ押し気味の社長に、
『話しは理解できました。でも本体が出るならうちの愛?T?愛(aitai)は辞めます。やはり1社1ブランドでと決めたばかりですし、そんな思惑が絡んで太田さんと一緒に楽しく合同展もできないですから…』と唇をかんだ沖田。
横で部長がじっと沖田を見つめていた。

■「わかった」と言った社長。「では…」と続けた言葉は…