小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2011年 6月26日(日)
第69話:「優先するのはどれ?」
■前回のあらすじ…合同展まで残り1ヶ月を切り、その前に開催される自社展示会にいつもの慌ただしさと緊張感が満ちていたが…

『どうだったの?検査の結果は。』と非常階段に出て小声で電話する沖田。
「うん、また転移が見つかったみたい。あと1ヶ月はもたないかも知れないって言われたって、美佐から…。」と涙声の妻宏子。
『そうか、なんとか頑張って欲しいな、お義父さん。』と社交辞令のような言葉に自分でももどかしさを感じた沖田。
「私も近くに居たいけど今の会社の新しいプロジェクトが始まったばかりだから抜けられないし、かといって母さんと美佐ばかりに頼っちゃって。あの子だって今教員試験の勉強中なのに…」と妹を気遣う宏子。
『今はお義母さんに任せるしかないよ。何かあったらすぐに飛んで行こう。』と言いながら「しまった、なんてことを」と思った沖田だった。
「う、うん、お願い…」と鼻声の宏子からの電話は切れた。
『1ヶ月か。でも相当進行が速いな。』と携帯を見つめた沖田は、
『あとはもう悔いのないようにやるしかない。』と強く自分に言い聞かせ部屋に戻ると、
「沖田さん探しましたよ、電話ですよ和田さんから。」と営業から戻ったばかりの藤原が点滅の電話を指差した。
『はい、沖田です。昨日はお疲れ様でした。何かありましたか?』と沖田が聞くと、
「沖田さん、合同展の共通DMのデザインが出来たのでメールで送りましたが、見てくれました?」と早口の和田。
『あっ、すみません。朝から打ち合わせで、まだメール確認していませんでした。ちょっと待ってくださいよ〜。あっ、ありました。おっ!おおっ!良いじゃないですか。』と沖田。
「いやあ、沖田さんに褒めてもらうと素直に嬉しいなあ。でもそれ僕じゃなくて女房作なんですけどね、えへへ。」と電話でも照れている様子が可笑しかった。
「なかなか良い出来でしょ。女房もこれは高いわよって自慢していました。うちの仕事そっちのけでやってくれましたからね。その昔学生の頃にイラストレーターを目指していたらしいですから。」と半分奥さんの自慢だったが、出来は満足のいくものだった。
『では当初の予定通りにこれを共通DMとして各社に配信しますね。それをプリントアウトしてそれぞれのお客さんに送ってもらいます。それと、今回デザイン料は出ませんが、本当に感謝していますとお伝えください。』と言うと、「いえいえ、彼女も満足しています。なんたって自分のデザインが今回の合同展のDMになるんですから…では、これで私の担当の役割分担は一段落ですね、ははは。」と和田も嬉しそう。
『さあ、あとは呼び込みだ。でも本社に来てくれたお客さんをもう一度呼び込むには相当難しいだろうなあ。うちだけノベルティを使ってでも呼び込むかなあ…』と独り愚痴る沖田の横で、藤原が
「僕の担当のお店数軒から、合同展の方に行くので本社にはいかないと言われました。本体ブランドも取引がある店ですからそれだけはまずいので、本社にまず寄ってくださいと言いましたけど、両方来てもらうのは難しいですね。」と弱音を吐く。
『そんなことは百も承知でやっているんだから、何とかプッシュしてくれよ。でもどうすれば両方パーフェクトに来てくれるんだろうか。サンプルは同じだし、現物商売は済んでいるし…』悩む沖田。

■まさかの展開に打開策が見つからない沖田には、公私ともども時間がなかった。どうする沖田。