小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2011年 7月24日(日)
第71話:「舞台の幕は上がった」
■前回のあらすじ…本社単独の展示会から顧客を合同展に誘導するための苦肉の策としてのイベント開催を告知した沖田たち。はたしてその効果は出るのか。

合同展初日の朝
『おはようございます。』と、参加企業全員集まっての朝礼で、沖田が第一声。
『いよいよ、今日から3日間の《合同展ステージ》が始まります。』と緊張の声。
『初めての試みですが、皆さんの熱い思いがどれだけのお客様に感動を与えられるかを、試してみましょう。どんな場合でも、元気に明るく声出していきましょう。それと、今回期間中に小さなイベントですが、絵手紙コーナーと姓名判断コーナーを設けました。時間は決まっていますので、その時にお客様がおられたらお勧め下さい。コーナーへの対応はうちのスタッフがやります。それと会場の注意事項はアイラインの横川さんからお願いします。あとはご紹介するまでもないので、割愛!』笑いが起こり、横川が説明した。そして沖田が引き続き、
『じゃあ、折角ですから、朝いちの気合をオカヤマ株式会社の児島社長お願いします。』と児島社長に振る沖田。驚く児島社長。
「びっくりしたあ。いきなりご指名やね。みなさん、おはようございます。こうやって全く知らない会社同士が、縁あってこのアイラインさんの素敵な展示会場をお借りして合同展ができるなんて、本当に不思議だし、でも朝からワクワクしています。昨日最終で東京入りして、朝一番でここに入って、その雰囲気が手作り感もあってなんだか楽しそうなので安心しました。この空気をそのままお客さんに伝えましょう!当然ビジネスもせなあかんよ。」会場内に笑みがこぼれたが、社員の池田真由だけが怖い顔で睨んでいた。
「うちの池田が話が長いと怒っているので、さっそく気合を入れます。ご唱和ください。では、3日間の成功を祈って、エイ・エイ・オー!」と拳を突き上げた。それにならって皆が声を出して拳を突き上げた。一体感が生まれた。
それから間もなく第1号のお客様が来場され、会場がにぎわいだした。
5ブースそれぞれにお客様が入り、狭い会場なので余計ににぎわっているように感じた。しかもみな笑顔だった。
それを見ながら沖田に近づいた人物がいた。
「よかったな、朝から混み始めて。」と沢田部長の声に驚く沖田。
『びっくりした。おはようございます。早い登場ですね。』と笑顔の沖田に、
「会社にいると社長がうるさいんだよ。いつ行くんだと聞いてきて。だから取り敢えず行ってきて報告しますよ、って逃げてきたんだよ。」とこちらも笑う沢田。
『なるほどね、やっぱり気になるんだ。』と沖田。
「当たり前だろ。それと、いつごろアランの太田社長が来るのかも聞いてきてくれって言われたよ。」と声を潜めてアラン・コーポレーションの太田圭子さんを見る沢田。
『ああ、やっぱりそっちですね。だったら紹介しますよ。その方が話しが早いでしょうし。』と言う沖田に対して、
「いや、今接客中だから後にするよ。」と沢田。
『実は昨日準備の時にそれとなく圭子さんに聞いたら、あっさり教えてくれましたよ。明日の昼過ぎですって。』と笑う沖田。
「なんだ、早くそれを言えよ。」笑う沢田。
そうこうしているうちに、続々とお客様が来場され、二人とも接客と誘導に負われた。

■このまま続けば良いのにと思った沖田だったが、ポケットの着信バイブは鳴りっぱなしだった。