小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2011年 8月7日(日)
第72話:元気と勇気、そして…
■前回のあらすじ…3日間の合同展ステージが始まり、初日の割には朝からバイヤーも途切れず、何とか体裁を保ちながら2日目を迎えた。

『あっ、お疲れ様です。』と沢田部長と共に現れた河本社長に受付の沖田が挨拶した。
「どうだ?今日は?」と芳名帳を見ながら河本社長が小声で聞いた。
『昨日より出足が鈍いかな?って感じですが、でも各社に一組ずつお客さんが居ますからこれからですかね。あっそうだ、あそこに社長が会いたがっていたアランの太田社長が居ます。紹介しますね。』と言ってさっさと沖田は、太田圭子さんと太田社長の所に小走りで駆け寄り、圭子さんを連れて戻ってきた。
『うちの社長です。こちらがアランコーポレーションの太田圭子さんです。』と紹介すると、そこに遅れてアランの太田社長もやってきた。沖田から話は聞いていたようだった。
河本社長も恐縮して慌てて名刺を取り出し挨拶した。河本・沢田そして太田社長の3者会談がテーブルで始まった。それを横目で見ながら沖田は、『すみませんね、わがままな社長で…』と圭子さんに謝った。「とんでもない、河本社長のおかげで私もここに出られたわけだし、昨日沖田さんに紹介してもらった新宿の百貨店でのコーナー展開も決まったし、そのお礼としたら父の紹介なんか安いものよ。」と明るく笑う圭子に、『いや、昨日は本当に良かったですね。なかなかいきなりあんな話にはなりませんから、やっぱり商品じゃないですかね。』と誉める沖田。実はそのバイヤーとは親しい仲で、すでに根回しは済んでいた結果だったが、圭子には知る由もなかった。
そんな二人の所に和田社長が慌ててやってきた。
「沖田さん、これからうちの一番のお得意先さんが来られるんです。バッグ専門のチェーン店なんですが、今回は洋服も見たいということで各店の店長も一緒に来るそうなんですよ。たった今電話があって。」と早口の和田。
『何店舗ぐらいなんですか?』と沖田。
「15店舗です。各店の店長が一度に来るのは珍しいんですよ、どうしましょうか?混雑しますから後にしてもらいましょうか?」と悲しげな和田。
『大丈夫ですよ、混雑しているぐらいの方が…。少しレイアウトを変えますから、お迎えしてください。』と言って、各ブースの担当に耳打ちして什器の移動を始めた。最後に沢田部長の所に行って場所を譲ってもらった。
そのレイアウト変更が終わった瞬間に団体客が入ってきた。間に合った。
『いらっしゃいませ。お待ちしていました。』と言って迎えた沖田と和田。
芳名帳を書き終わって顔を上げた代表らしき人に、受付の後ろに動かされた三者会談中の太田社長が「山本さん!」と声を掛けた。「ありゃ太田さん」とその代表も驚いた様子だった。実は二人とも雑貨ギフト組合の委員で、まさかここで会うとは思っていなかったようだった。なぜか三者会談から四者会談となり話しが弾んだ。各店の店長はそれぞれ各ブースを見はじめ、中には姓名判断や絵手紙のコーナーで真剣な顔つきのバイヤーもいた。
かなりの混雑と盛り上がりで、来られたお客様もその雰囲気に圧倒されながらも楽しんでいた。
沖田は携帯を触りながらも商売に必死だった。そして商談の合間を縫って電話を掛けた。『…そうか、…そうか、ごめん。』それしか言いようがなかった。

■次回第一部最終回となります。どうなる沖田!乞うご期待。